今週のお題「告白します」
「知内に着いたら分かるよ。実はおれ・・・なんだ。」
それは2003年の9月。北海道でヒッチハイクをしていたときのこと。
北海道は広大すぎて、ちゃんと1周している間に凍えてしまう。北海道の後だって東北がある。
北海道を越えたって東北で凍えてしまう。
そう判断して、ぼくはあえなく札幌に着いた翌日に函館を目指した。
いや、そう判断したのは、前夜札幌のオートバックスの駐車場で野宿したときに暴走族におどかされたという恐怖も手伝ったかもしれない。
だたっぴろい駐車場の脇の水道で歯磨きをし、堂々と駐車場に寝袋敷いて寝たのまではよかったが、暴走族が来て心身ともに凍てついた。
実際寒かった。
(しかたない。一応北海道の地は踏んだから、また本州にもどろう。)
そしてすぐに函館にもどった。
でも函館に着いたところで実はまだ本州には遠い。これはヒッチハイクで全都道府県を回る旅。
「移動はヒッチハイク」という原則(ぼくの勝手な)を崩してはずるくなってしまう。
とは言っても海をヒッチハイクで渡るわけにはいかない。だから本州から北海道に渡るときは大間からフェリーで渡ってきた。
ヒッチハイクできないなら、海を渡る最短の手段で渡るのは例外ルールとしてOKと、自分で決めた。
実のところ、旅のつわものの中には海もヒッチハイクで渡る人もいるとすでに聞いていた。
どうするか?
それはフェリーに乗る車に乗せてもらうという方法。これは誰でも思いつく。でも一人分の運賃を余分に払ってもらわなくてはならない。
それを承知でこちらから声をかけるのは心臓に剛毛でも生えてないとできない。少なくともおれは怖くてできない。
いや、運がいい人はこっそりトラックの荷台に隠れさせてもらうなんて人もいるという。
でも海ヒッチのつわもの情報はこれにとどまらない。それは船をヒッチハイクする人がいるということだ。
まさか。
ぼくはそういう情報を聞くたびに首をふって「ありえない!」と心の中で叫んでいた。
でも同時に、「なんでお前はやらないんだ?不可能じゃないだろう?」と自分自身にナイフを突きつけていた。
そうやって日々精神を消耗させていたのである。
無論、いろんな言い訳を心に張り付けて、海ヒッチを選択肢から追いやり、一番無難な「海は車以外の交通手段を使ってよい。だたし最短距離のみ。」というルールを採用した。
そこで函館にいたぼくは当然列車で函館から海を越えていこうとはしない。
北海道の列車の玄関口は函館だと思っている方が多いと思うが、函館は特急の駅の玄関口であって、普通列車は函館ではない。
知内(しりうち)だ。
ぼくは知内を目指した。北島三郎さんの故郷だという。
その日のヒッチハイクは歩きながらヒッチハイクをする方法を採った。
歩きながらというのは、行き先を書いたスケッチブックをバックパックの背中にかけて道の左側を進行方向に向かって歩くという方法だ。
こうすることで自分自身歩いて目的地に近づきながら、同じ進行方向の車に行き先を見せつつ進むことができる。
もちろん成功するかどうかはこの時点で実証済みだった。
その日は晴れていた。気持ちよい晴天の日だった。左手に海と青い空。
函館から海沿いの幹線道路をひたすら南東へ向かう。バックパックと「日本二周」と書かれたギターケースを右手に持って。
どれくらい歩いたか、ファミリーマートを通過した時だ、店内から出てきた30代くらいのお兄さんがぼくに手を振っている。
(もしや。)
足を止めておじぎする。おにいさんは手にビニール袋を持っていた。
「乗ってきなよ。コーヒーとおにぎり買ってあるから。」
(まじで?!うれしすぎる!めっちゃウェルカムじゃん!これはホッとする!)
「さっき見えたから先回りしておいたんだよ。」
これが「歩きながらヒッチ」の威力だ。ちゃんと伝わっている。
お兄さんの名前は「まささん」。
「芸名だよ。」
(おもろい人だな。芸名とか言っている。)
「今仕事さがしてる最中でさ。まあいざとなったら体売ればいいしね!」
「またまたあ。何言ってるんですか(笑)。」
かなり話がもりあがった。こちらにもいろいろ質問してくれて、会話が弾む。すごくいい人だ。
「君の笑顔はいい笑顔だね。」
とか、ほめてもらえた。
(ああ、ええ人や。今日はラッキーやあ。)
「あとで、あることが分かるよ。」
「え?何ですか?」
「いや、まだ言えないんだよ、」
「またまたあ。またなんか面白いことでしょ?」
そんな感じでフレンドリーにやりとり。会話は続く。
「もうすぐ知内だよ。知内っていうのは山しかなくてね。北島三郎の歌しか流れてない。さぶちゃんの歌がやまびこで響いてる。」
「へえ、そうなんですか。ところで、さっき言ってた、『あとで分かること』って何ですか?
「ああ、もうすぐだよ。知内に着いたら分かるよ。」
まだ、教えてくれない。そして徐々に人里を離れまわりは山だけになってきた。知内に入ったようだ。
「もう知内ですか?」
「そうだね。山しかないでしょ?役所でもサブちゃんの歌流れているんだよ。」
「さっき言ってたの何ですか?」
「ああ、あれ?あれはさあ、実はおれ、ホモなんだよ。」
(なんだってーー!そうか、そういうことか!芸名!体売る!君の笑顔いい!いやまてまてまてまてまて!この状況はやばい。襲われるのか?どう乗り切る?とりあえず敵対心を向けてはいけない。怒らせてはいけない。体格的に絶対叶わない)
「あ、そうなんですか?!」
と普通に返した。
「そうなんだよ。ここはさあ、どんな大声出してもやまびこしか返ってこないんだよ。」
(やばい!めっちゃこわいこと言ってるこの人!おれは今絶体絶命だってことだろ)
「いやいや何言ってるんですか?もう。」
とあくまでも明るく返す。
「じゃあ、ベルト外して。」
きたーーーーーー!
本当にきたーーーーーー!
(どうする?どうする?一番言われたくないこちらの恐怖の核心をついてきた。なんとか切り抜けろ!あくまでもマジで受け止めてはいけない。)
「ハーーイ!ハズシマス♡」
とおちゃめに言って見た。手はベルトを外すふりをしただけ。
「アッハッハッ!」
まささんが笑ってくれた。うまく返せたのかそれ以上何も求められず、冗談に変換するということをうまくぼくはやってのけたのだ。
間もなく車は知内に着いた。知内は1日に2本しか列車が来ない。さみしい駅だ。でもロータリーはちゃんとある。
まささんと笑顔で別れることができた。
「ありがとうございました!」
「じゃあね。がんばってねー!」
ふぅーー。
(危機を乗り越えたぞ!ん?タバコを車ん中に忘れた!貴重なタバコを。やっちまった。)
とたたずんでいると車が戻ってくる。
「タバコ忘れてるよ。」
まささんが届けにもどってきてくれたのだ。ありがたい。
(やっぱり悪い人じゃなかったんだよな。おれの目は間違えてなかった。信じてよかった。)
「旅は人を信じなければ成り立たない。」
それがヒッチハイクの旅で大事にしていった言葉となった。
おしまい
ちなみに、第1話がはじまりました。スタートから読みたい方、どうぞ↓
written by SEGE